街中を走る、タクシー。
一般の車と変わらないように見えますが、タクシーはタクシー用の自動車を使っています。
タクシー用車両と一般車両の違いの一つは
『ほとんどのタクシー車は、プロパンガスを燃料にして走っている』
ということ。
『自動車』と言うと『ガソリン』のイメージですが、プロパンガスで走る車もあるのです。
そして、タクシーの8割くらいが、プロパンガスを燃料としています。
でも、ガソリンではなくプロパンガスを使うメリットって、あるのでしょうか?
ということで今回は、タクシー車がプロパンガスを燃料として使うメリットやデメリットについて解説していきます。
ぜひ読んでみてくださいね!
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『LPG車』とは?
プロパンガスを燃料として走る車のことを『LPG車』『プロパン車』と言います。
『LPG』とは、『液化石油ガス』つまり『プロパンガス』のことです。
プロパンガスは、車用でも家庭用でも基本的には同じです。
ただ、車用のプロパンガスはプロパンとブタンを混合したガスを使います。
混ぜる割合は季節や地域によって違い、車を使う環境でちょうど良い気化しやすさになっています。
LPG車は
- タクシー
- 東京23区内の清掃車
- クロネコヤマトや生協などの配送車
- 一部の路線バス
- 国土交通省の作業車
- 福祉車両
など、業務用の車両で使われることが多いです。
また、数は少ないですが、LPG車が好きで個人で乗っている人もいます。
プロパンガスを燃料とするLPG車のメリットとデメリット
タクシー車がLPG車を使うのは、やはりメリットが大きいからです。
しかし、デメリットもあります。
では、どんなメリットやデメリットがあるのか、見ていきましょう。
タクシー車がプロパンガスを燃料とするデメリット
デメリット1 燃費が良くない
プロパンガスを燃料とする車は、『燃費が良くない』と言われることが多いです。
どれくらいかというと、おおよそリッター10㎞くらいと言われています。
ただし、タクシー車は
- アイドリング時間が長い
- 夜間に走ることも多い
- 電気装備が多い
といった、一般車とは違う使い方をしている部分もあるので、一概には比べられません。
ちなみに、一般車としてLPG車を使っている人によると、
『信号の少ない道を60㎞/hくらいで走ると、リッター12㎞くらい走れる』
という話もあります。
また、最近のLPG車は性能も良くなっているので、ガソリン車との差も縮まっています。
燃費は走り方にもよるので、実際には『LPG車はすべて燃費が悪い』とも言えないでしょう。
デメリット2 プロパンガス補給をできるLPガススタンドが少ない
プロパンガスの補給は、対応している『LPガススタンド』でないとできません。
このLPガススタンドは、ガソリンスタンドに比べ、数が少ないです。
もちろん、タクシーでLPG車を使っているわけですから、ないわけではありませんが、
『ガス欠になりそうだから、近くのスタンドに飛び込む』
というわけにはいきません。
また、ガス欠になってレスキューを呼んだ場合、レッカー対応になってしまうこともあるでしょう。
とくに遠出の時は、LPガススタンドの場所もチェックしておく必要がありますね。
ちなみに、LPガススタンドはプロパンガスを扱っているので、構造的にも普通のガソリンスタンドより丈夫にできています。
自家発電装置を設置しているスタンドも多く、災害で電気が止まってもすぐ使えます。
利用の仕方は、セルフではないガソリンスタンドと同じ。
LPガススタンドは数が少ないですが、スタンド自体が利用しにくいわけではありません。
デメリット3 ガスボンベの定期検査が必要
LPG車に乗せているガスボンベは、6年に1度、車検とは別の検査が必要です。
この検査には、だいたい6万円くらいかかり、車やガスボンベの状態によっては、それ以上の費用が掛かります。
そのため、走行距離があまり長くないと、燃料が安くても元が取れないこともあります。
ただ、タクシーは1年間に走る距離が長いので、元を取りやすいと言えるでしょう。
また、LPG車に対応した工場で検査を受ける必要があります。
これも、ガソリンスタンド同様、ボンベの検査を受けられる整備工場も少ないです。
デメリット4 パワーが弱い
LPG車の最高出力は、だいたい80馬力程度です。
一方、2000㏄のセダンの最高出力は、160馬力くらい。
倍くらいの差があります。
といってもタクシーで使うわけですから、もちろん普通に走るのに十分なパワーはあります。
ただ、メーカーにとって、車の出力は大事なアピールポイントの1つ。
LPG車はそこが弱いので、売れにくくなる可能性もあります。
そのため、あえて一般向けにLPG車を売り出すメーカーも少ないのかもしれません。
デメリット5 車にガスボンベのスペースが必要
プロパンガスで走るからには、車にボンベを積まなければなりません。
多くのタクシーでは、トランクの中にガスボンベを積んでいます。
そのため、ボンベがトランク内で場所を取ってしまい、その分、トランクのスペースが狭くなってしまいます。
デメリット6 バッテリーの消耗が早い
LPG車は、冬場など気温が低い時には、エンジン始動の時のクランキングが長くなります。
そのため、バッテリーの消耗も早くなると考えられています。
ただ、タクシー車の場合、消耗が早いのは、アイドリングの長さや電気装備が多い、など車の使い方による部分もあります。
燃費同様、『LPG車はバッテリーが早く消耗する』とは言い切れない部分があるでしょう。
実際、一般車としてLPG車を使っている人によると、
「特別バッテリーの消耗が早いとは感じない」
とのことです。
タクシー車がプロパンガスを燃料とするメリット
メリット1 燃料費が安い
『ガソリンよりプロパンガスのほうが燃料が安い』
これがLPG車の最大のメリットです。
プロパンガスは、ガソリンのだいたい6割くらいの価格。
本来は、ガソリンもそんなに高くはないのですが、石油税やガソリン税が上乗せされるため、高くなります。
でも、プロパンガスにはガソリン税などはかかりません。
そのため、プロパンガスはガソリンより安いのです。
また、タクシーなどの業者向けに、一般の人よりも安い価格でプロパンガスを販売するスタンドもあります。
業者としてLPG車を使うと、優遇されることもあるのです。
さらに、ガソリンよりもプロパンガスのほうが価格の変動は少ないです。
コストが安定しているのも、業務用で使う人にとってはありがたいことですね。
このようなことから、1年で10万km近く走るタクシーでは、プロパンガスを燃料とする方が、燃料にかかるコストを抑えられるのです。
もっとも、近年はガソリン車やクリーンディーゼル車も燃費が向上し、差は縮まっています。
メリット2 排気ガスが比較的きれい
LPG車の排気ガスは、クリーンディーゼル車に比べて、窒素酸化物などが少ないです。
どれくらい違うか、比べてみましょう。
LPG車 | クリーンディーゼル車 | |
PM(粒子状物質) | 0.002g/kWh | 0.020g/kWh |
NOx(窒素酸化物) | 0.01g/kWh | 0.69g/kWh |
CO2(二酸化炭素) | 984g/kWh | 1005g/kWh |
このように、粒子状物質では10倍、窒素酸化物に至っては69倍もの差があります。
といっても、実はタクシー業界が環境のことを考えてLPG車にしたわけではありません。
コストを抑えるためにLPG車にしたら、排気ガスも汚れにくかった、という副産物的なところがあります。
でもいずれにせよ、車の排気ガスはなるべくきれいなほうが良いですね。
メリット3 エンジンオイルが長持ちする
プロパンガスを燃料とすると、燃焼率が良く、排気ガスもきれいです。
そのため、エンジンオイルが汚れにくいのです。
エンジンオイルが汚れにくいということは、エンジンオイルが長持ちし、交換のスパンが長くなるということでもあります。
どのくらい長持ちするかと言うと、ガソリン車の2倍くらいとのこと。
その分、維持費も抑えられます。
長距離を走るタクシーには、プロパンガスはとても向いている燃料なのです。
メリット4 エンジン音が静かで、振動も少ない
LPG車はガソリン車に比べ、エンジン音が静かです。
騒音のトラブルも少なくて済みます。
なので、ゴミ収集車など、自治体で使う車にもLPG車が使われているのです。
メリット5 盗まれにくい
LPG車は、LPG対応のスタンドでないと燃料を補給できないため、盗まれにくいというメリットもあります。
盗んでも、燃料を補給できなかったらどうしようもないですからね。
もっとも、タクシーはコラムシフトのマニュアル車が多いですよね。
一般的な車とは操作が違うため、運転も難しいです。
そういう点でも、タクシー車両はそもそも盗まれにくいメリットがあります。
LPG車についての豆知識
ここまで、タクシーでLPG車を使うメリットやデメリットを紹介してきました。
では、LPG車には、他にはどんな側面があるのでしょうか?
いくつか、豆知識を紹介しましょう。
オールLPGのタクシー車は消えてしまう?
今現在、タクシーのほとんどの車はトヨタ製のLPG車です。
しかしトヨタでは、プロパンガスのみで走る車両の生産を、2017年末に終了しました。
新しく開発したタクシー用車両では、LPガスハイブリッドシステムを採用しています。
このタクシー車両はこれまでよりさらに燃費性能も良く、ランニングコストもいっそう低く抑えられるとのこと。
今後は、LPガスハイブリッドシステムのタクシー車が増えていきそうです。
車にガスボンベを積んで、危なくないの?
『ガス=爆発』
っていうイメージ、なんとなくありますよね。
でもLPG車のガスボンベは、
事故の衝撃にも耐えられるように作られていて、安全対策は万全。
事故で車が燃えてしまったとしても、ガスボンベが爆発する可能性は低く、事故があった時の安全性で言ったら、むしろガソリン車より安全なくらいです。
また、そもそもボンベの中のガスは、そうそう爆発しません。
ガスが爆発するのは、
- 空気と一定の割合に混ざる
- 火が付く
という条件が重なったときです。
ガスボンベの中のガスは、空気と混ざることはないので、いきなり爆発もしません。
バスもLPG車のものがありますが、『バスガス爆発』なんてことはないので、安心して乗ってくださいね。
『都市ガス車』ってあるの?
プロパンガスの車があるなら、『都市ガスの車』もありそうですよね。
『都市ガス車』ではなく、『天然ガス車』『CNG車』と呼ばれていますが、あります。
文字通り、天然ガス(都市ガスは天然ガス)を燃料にして走る車で、これも
- 食料品や荷物などの配送
- 路線バス
- ゴミ収集車
などとして使われています。
LPG車同様、
- 燃料費が安い
- 排気ガスが比較的きれい
- 燃料を供給できるスタンドが少ない
といった特徴があります。
LPG車も天然ガス車も、『ガス』なので特徴が似ています。
ただ、やはりプロパンガスと天然ガスは性質が違います。
LPG車の燃料補給はLPGスタンドで、天然ガス車の補給は天然ガス車用のスタンドでしましょう。
もっとも、万が一間違えても、スタンドの人が教えてくれると思います。
LPG車は個人でも所有できる
タクシー用車両が多いLPG車ですが、個人でも所有でき、乗用車として販売もされています。
ただし、やはりタクシーと一般の乗用車では、走行距離が違います。
また、LPG車はボンベの点検などにも費用が掛かるので、もし購入を検討するなら、
- 年間どのくらい走るか
- 燃料費やメンテナンスなどの維持費がどれくらいかかるか
などのコストパフォーマンスもよく考えたほうが良いでしょう。
また、ガソリン車をLPG車に改造することも可能です。
改造の費用は車種によって違いますが、
普通のガソリン乗用車の場合、50万円くらい。
車種によっては、もっとかかることもあります。
LPG車は災害にも強い!
LPG車は『災害に強い』車でもあります。
東日本大震災の時には、どこのガソリンスタンドでも長蛇の列ができました。
待ちに待ってやっと順番が来ても、1人あたりのガソリンの量を制限された、という記憶のある人もいるでしょう。
一方、LPG車はどうだったかというと、
- LPガススタンドが災害に強い
- プロパンガスの在庫が安定している
- LPG車の絶対数が少ないため、供給を受けやすい
といったことが支えになり、十分に燃料を補給することができたのです。
東日本大震災の時は、タクシーを含めたLPG車が、医療関係者やボランティア、患者の搬送などに大活躍してくれました。
このようなことを考えると、LPG車は災害大国の日本には必需品と言えますね。
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まとめ
タクシーの車両のほとんどは、プロパンガスを燃料として走る『LPG車』。
LPG車には
- 燃料費が安い
- 排気ガスがクリーン
- エンジンオイルが長持ちする
- 災害時にも燃料を補給しやすい
- ガソリン車より音が静か
などのメリットがあります。
こうしたメリットは、長距離を走るタクシーにはうってつけ。
そのため、タクシーの多くがLPG車を使っているのです。
一方で、
- 燃費が良くない
- ガソリン車に比べ、バッテリーが長持ちしない
というデメリットもあります。
ただ、それはアイドリング時間が長く、夜間の運転も多いタクシーならではの車の使い方による部分もあります。
また、今後LPGハイブリッド車になって行けば、燃費の問題も解消されるでしょう。
燃費が良く、環境にも優しくて、乗り心地がさらに良いタクシーが増えていくと良いですね。